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福岡高等裁判所 昭和36年(ネ)99号 判決 1961年5月30日

控訴人 植園安彦

被控訴人 舛田義雄 外一名

主文

一  控訴人と被控訴人舛田義雄にかかる原判決に対する控訴を棄却する。

二  控訴人と被控訴人北谷繁にかかる原判決をつぎのとおり変更する。

(1)  (一)債権者被控訴人北谷繁、債務者控訴人間の昭和三〇年一二月二八日附消費貸借契約に基く元金六〇万円、弁済期同三一年一二月二八日利息の定めがないとする債権のうち、元金は金五〇万円を越える部分が存在しないことを確認する。

(二)大分地方法務局長洲出張所昭和三〇年一二月二九日受附第一、三八六号をもつて、原判決末尾第二目録不動産についてなされた、抵当債権者被控訴人北谷繁、債務者兼抵当権設定者控訴人間の右同日附抵当権設定契約並びに消費貸借契約に基く債権額六〇万円、弁済期同三一年一二月二八日利息の定めがないとする抵当権設定登記につき、被控訴人は控訴人に対し債権額を金五〇万円に改める更正登記手続をなすこと。

(2)  控訴人の同被控訴人に対するその余の請求を棄却する。

三  控訴人と被控訴人舛田義雄間の控訴費用は控訴人の負担とし、控訴人と被控訴人北谷繁間の第一、二審の訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実

第一控訴の趣旨

(1)  原判決を取り消す。

(一)  被控訴人舛田義雄に関する分

一 被控訴人は左記債権の存在しないことを確認し、控訴人に対し左記抵当権設定登記の抹消登記手続をしなければならない。

1 大分地方法務局長洲出張所昭和三〇年二月八日受附第一六八号をもつて原判決末尾第第一目録不動産(控訴人が控訴状に書いている長洲町住吉町一丁目四番地宅地一三〇坪六合四勺は、第一審において主張しているとおり、右同番地宅地一五七坪六合七勺の誤記と認めて訂正の上記載する。以下同じ)につき、登記された抵当債権者被控訴人、債務者兼抵当権設定者控訴人間の同月七日抵当権設定並びに消費貸借契約に基く、債権額金六〇万円、弁済期昭和三一年二月二八日利息日歩二銭とする債権並びに抵当権。

2 大分地方法務局長洲出張所昭和三〇年八月五日受附第九四八号をもつて、原判決末尾第一目録不動産につき、登記された抵当債権者被控訴人、債務者兼抵当権設定者控訴人間の同日抵当権設定並びに消費貸借契約に基く、債権額金三〇万円、弁済期同三一年二月二八日利息日歩二銭とする債権並びに抵当権

二 被控訴人が控訴人に対し右の抵当権実行のため、大分地方裁判所中津支部に申し立てた同庁昭和三三年(ケ)第四二号不動産競売申立は許さない。

(二)  被控訴人北谷繁に関する分

一 被控訴人は原判決末尾第一目録不動産について、大分地方裁判所中津支部昭和三三年(ケ)第四二号不動産競売事件において、昭和三五年三月二五日競落許可決定による被控訴人の同不動産の所有権取得が無効であることを確認し、控訴人に対し右競落による所有権移転登記の抹消登記手続をしなければならない。

二 被控訴人は左記債権の存在しないことを確認し、控訴人に対し左記抵当権設定登記の抹消登記手続をしなければならない。

大分地方法務局長洲出張所昭和三〇年一二月二九日受附第一、三八六号をもつて、原判決末尾第二目録不動産につき、登記された抵当権者被控訴人、債務者兼抵当権設定者控訴人間の同日抵当権設定並びに消費貸借契約に基く、債権額金六〇万円、弁済期昭和三一年一二月二八日利息の定めがないとする債権並びに抵当権。

(2)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

第二被控訴人らの答弁の趣旨

控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。

控訴人は適式な呼出を受けながら、昭和三六年五月一六日午後一時の当審最初の口頭弁論期日に出頭しないので、控訴状の記載事項はすべて陳述したものとみなし、出頭の被控訴人ら代理人に弁論を命じた。控訴の趣旨、答弁の趣旨は前示第一、第二のとおりであり、事実関係は原判決記載のとおりである。証拠として、控訴人は、甲第一、二号証の各一から三まで、甲第三号証の一から四まで、甲第四号証から第七号証までを提出し、右甲第一ないし第三号証(枝番号を含む)によつて控訴人不知の間に本件の各登記がなされたものであると述べ、原審証人南季一、森森夫、岡田正義、佐藤奈津子、今井富雄の各証言、原審控訴本人の尋問の結果を援用し、乙第一号証から第三号証まで、乙第五、六号証はいずれも公印公文書部分のみ成立を認めて、その余はすべて否認する。乙第四、七、八号証はいずれも否認すると述べ、被控訴人らにおいて、乙第一号証から第八号証までを提出し、原審証人長岡宏治、長岡タカの各証言を援用し、甲第四号証から第七号証までは、いずれも知らない、その余の甲号各証はすべて成立を認めると述べた。

理由

一、控訴人主張のように控訴人所有の本件不動産について主張内容の各抵当権設定登記がなされ、主張のように競売申立がなされて競落許可決定があり、控訴人北谷繁が競落による所有権移転登記を経たことは、関係当事者間に争がない。したがつて控訴人主張の各消費貸借・抵当権設定及びその登記(たゞし、控訴の趣旨(二)の二の債権額金六〇万円は金五〇万円であることは後記認定のとおりである。)、競売手続、被控訴人北谷繁のため競落による所有権移転登記は、いずれも真実有効なものと推定すべきであり、この認定に反する原審控訴本人の尋問の結果は原審証人長岡宏治、長岡タカの各証言と対比して信用できないし、原審証人南季一、岡田正義、佐藤奈津子の各証言をもつては、右認定を動かすことができず、その他に反証はなく、また、原審証人森森夫、今井富雄の証言は、なんら右認定の妨げとならない。したがつて、本件各債務不存在確認、抵当権設定登記の抹消登記手続請求(たゞし左記二参照)、競売手続不許、所有権移転登記の抹消登記手続を求める請求は、抵当権及びその被担保債権の不存在を前提とするものであるから、排斥を免れない。

二、ところで、前示長岡宏治の証言により成立を認めることのできる乙第四号証、同証言、前示長岡タカの証言を前示当事者間に争のない事実(大分地方法務局長洲出張所昭和三〇年一二月二九日受附第一、三八六号をもつて、原判決末尾第二目録不動産につき登記された、控訴人と被控訴人北谷繁間の債権額金六〇万円、弁済期昭和三一年一二月二八日の抵当権設定契約とその登記)と対照すれば、右抵当権の被担保貸金の元本は五〇万円であるのに、事実に反し貸金の元金を六〇万円であるとして、この六〇万円を担保するため前示のような抵当権設定登記の経由されたことが認定されるので、控訴人の同被控訴人に対し負担する債務の元本は五〇万円であつて、六〇万円ではないこと、また、債権に対する抵当権の附従性及び物権の内容の法定主義に照らし、右のような抵当権設定したがつてその登記は、被担保債権額が五〇万円を越える限度において不法であることは言をまたない。控訴人は右抵当債権は不存在で、抵当権設定契約も不存在であると主張して、抵当権設定登記全部の抹消登記手続を請求しているが、控訴人の口頭弁論の全趣旨によれば、右請求にはその一部の抹消請求ともいうべき、抵当債権額六〇万円を五〇万円に更正する更正登記の請求をも包含していないとはいえないので、請求全部を棄却しないで主文二の(二)のとおり被控訴人北谷繁に対し更正登記手続を命ずることとする。(同旨大審院昭和八年(オ)第一、三三六号・同九年三月一日第一民事部判決)けだし、これを反対に解し、本件のような抹消登記請求は、更生登記の請求を包含しないので請求を棄却すべきであるとの説(例えば東京高等昭和三二年四月一三日高裁判例集一〇巻三号一六八頁要旨三関係)に従えば、本訴請求は抵当債権六〇万円の抵当権設定登記の抹消登記手続請求権を訴訟物とするものであり、いうまでもなく抵当権設定の登記には常に債権額を登記すべきものであるから(不動産登記法第一一七条・第五一条第二項)、かりに請求全部を棄却した判決が確定すると控訴人が被控訴人に対し訴訟物たる右の抹消登記手続請求権を有しないことにつき既判力を生ずる結果、控訴人はその一部抹消登記手続請求権に当る、債権額六〇万円を五〇万円に更正する更正手続請求権をも有しないことにつき既判力が及ぶ結果、一方においては抵当債権額は五〇万円であることの確定判決を有しながらこれに合致する抵当債権額を五〇万円とする抵当権設定登記に更正する登記請求権は有しないという不合理な結果を招来し、法律による判決の結果とはいえ、債権五〇万円を担保する六〇万円の抵当権が出現して、かかることは物権内容の物権法定主義(民法第一七五条)、抵当権の附従性、不動産登記法第一一七条の精神にも反することが明らかであるから、反対説は採用しがたい。

三、原判決中控訴人と被控訴人舛田義雄に関する部分及び控訴人の被控訴人北谷繁に対する所有権取得の無効確認・所有権移転登記の抹消登記手続を求める請求を棄却した部分は、いずれも相当で、この部分に対する控訴は理由がないが、控訴人の被控訴人北谷繁に対するその余の請求を棄却した原判決は不当であるから、民訴第三八四条第三八六条第九五条第九六条第八九条第九二条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 川井立夫 秦亘 高石博良)

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